最近よぉ、家に門番がいてめんどくせぇったらありゃしねぇ。門番ていってもよ。一匹の野良猫が勝手に門番やってらぁ。
昨日も門の前に、あの野良猫がどっかり寝そべっていやがって、しかたがねぇから、さっきコンビにで買ったばっかの栗入り大福を開けてよ、中の栗を取り出して、野良猫に向かって投げたわけさ。でもよ。その野良猫、体を重そうに持ち上げて、鼻でくんくんと、二度ほど栗の匂いを嗅いだはいいが、口をつけやしねぇ。こっちは、栗入り大福の栗がなくなって、ただの大福になっちまったっていうのに、どうしやがる。
んなことを猫に言ったが、聞く耳もっちゃいねぇ。馬の耳に念仏と言ったもんだが、こりゃ、猫の耳にも念仏だな。ついでに、猫に小判じゃねぇ、猫に栗だな。しかも、門の前にまたどっかり寝そべって、どきそうにもねぇ。いい性格してるよなぁと思いつつ、横をすり抜けて門をくぐろうとしたら、入れさせねぇと言わんばかりに、「みゃぁ」と鳴きやがる。
なんで、どこの猫とも分からない野良猫に自分の家に入らせてもらえねんだと、こっちが泣きたくなっちまう。しょうがねぇ。キャットフードでも買おうと、もう一度コンビにまで戻ったがいいがよ、生まれてこのかたキャットフードなんて買ったこたぁねぇ。何を買ったらいいんだかわからねぇもんだから、ツマミ用のスルメを買って家に戻ったわけさ。戻ったつうか、もう一度帰ったつうかさ。
スルメを買って戻るまでの間に、もうあの野良猫はどっか行っちまったんじゃねぇかって心配になったりしてよ。いや、そのへんの野良猫だ心配なんかしねぇ。せっかく買っちまったもんが、無駄にならねぇかって思っただけさ。まぁ、ビールのツマミにするからいいんだけよ。
そんなことを思ったりして、戻ってみると、結局のところまだ居るわけよ。無愛想に首だけ動かしてこっち見上げてて何様だお前は。俺はよ、無愛想な野良猫に餌をやるほど人の出来た輩ではねぇけどよ、せっかく買ったスルメだし、何より家に入りたくてよ、スルメをチョイっと野良猫の顔のそばに投げてみたら栗の時と同じようにクンクンと二度ほど匂いを嗅いで、ちょっと考えた後、今度はムシャムシャ食べやがったじゃねぇか。
匂いを嗅いだ後の間。にくいねぇ。くわねんじゃねぇかと思わせやがる、あの間。間を大切にって、てめぇは落語家かっつうの。
でもよ、スルメが噛み切れねぇのか、ムシャムシャ手を、いや、猫に手なんてねぇか。前足を使いながら小さなスルメを噛み続けてる姿が面白くてよ。もう一本やったら、同じように匂いをかいで、器用に前足を使いながら旨そうにくいやがる。
それを見ていた俺は、ちょっとにやけちまったじゃねぇか。
そろそろ、いいだろうと思って、門をくぐろうとしたら、すぐ隣で「にゃー」と鳴いて、まだスルメを催促しやがる。
「てめぇは何様だ」と言ったら、このやろう、偉そうに前足を立てて座って
「門番様にゃー」
なんて、ぬかしたような態度しやがった。
いい加減に、俺も頭にきて説教の一つや二つしてやろうかと思ったが、真夜中に野良猫に説教してたら、近所の目がどうしても気になるじゃねぇかよ。しょうがねぇ。もう一本スルメを投げてみたわけさ。したら、さも当たり前のように食べやがる。いい加減にしろと思って、食べてる野良猫の横をすりぬけて門をくぐったわけさ。
後ろで「にゃー」って鳴いたが、俺の耳には届かなかった。
で、今日もスルメを買って家に帰ったんだけどよ。先の野良猫はいやしねぇ。いや、別にスルメは野良猫のために買ったわけじゃねぇぞ。久しぶりに、仕事後のビールを買って、そのツマミってわけだ。
でもよ。あの野良猫、食い物をもらってんだから、翌日は魚でもくわえて挨拶に来るぐらい可愛げがあってもよくねぇか。
「教育が、教育が」と言ったもんだが、最近の野良猫も出来てねぇなぁ。今度きやがったら、一から教育してやらぁ。覚えてろ。