旅行前に行き先に関する本を読もうとせずいつも旅から帰ってから興味がわいて手に取ることになる。本を読んでいてこの知識を先に知っていたらもっと違った視点で見られたのに、と後悔することも多いのだけれど、どうもそういう意欲がわいてこない。ガイドブックでさえ出発後に読むことが多いのだから、予備知識のさらなる予備知識を仕入れよという気持ちにはなっていないのだろう。
この本も旅のあとから急に読みたくなって買った本。かなり余談になるが、本は書店で自ら手にとったものを買いたいと思うのでAmazonで買おうなど全く思わないし、店頭で予約して手に入れるのも気分が乗らないわけで、この本を探して1ヶ月ほどのんびりと色々な本屋で探したものの売っていなかったので、予約することにした。
小説家がパタゴニアをどんな風に描くのかを期待して買った本なのだが、その意味では全く持って裏切られた。言葉で世界を作るというより、見た世界を言葉にする人なのだろう。それは筆者の略歴からも何となく想像できる。本の中のパタゴニアは彼の見たパタゴニアが実直な言葉で描かれていて、読んでいて心地のいいものだった。
舞台は20年前のパタゴニアで、主にチリ。その当時のパタゴニアは、今のように観光地にはなっておらず街は今よりさらに小さかったらしい。プエルト・ナタレスなんかは今でも小さな街なのだから、観光客がいなかった当時はゴーストタウンという表現そのままなのだろう。街の事情は色々と変わっている。観光客が行き交い、高速バスが街と街を結ぶ。舗装されていない道路をチャーターしたバンで行く必要はなくなった。筆者がベースにしていたホテル、モンテカルロにしても、4人のメイドのはおらず、フェイスブックをしていた気の良いおばちゃんが一人で管理人をしていたし、国際電話をするのに回線が開くまで8時間待たされることもない。ただ、ウシュアイアから1ヶ月以上かかった郵便事情は昔も今も変わってなさそうだけれど。
一方で、自然は変わっていない。「風の大地」というように、パタゴニアには強烈な冷たい風が吹き荒れていたし、広がる大地も薄い色をしたコンドルが舞う空もある。20年前に比べて大きく後退したとはいえ、氷河も前進と崩壊を繰り返している。そんな風景を復習するように思い出しながら、旅の後の余韻に浸るにはいい読み物だった。
そういえば、彼のスーツケースにこっそりと黄色い2本の花を入れた奥さんにちょっと萌えた。



