読んでいると、夏目漱石が愛おしくなってくる。
「講演内容がわからなかった。」と一学生に言われたことに対して「本当は講演やりたくなかったし…」とずるずるいつまでも引きずっていたり、節操のない人からの頼み事に嫌悪しつつも断り切れなかったり。正直に生きたいと思いつつそれを許さない世間と自分に嫌気が指して、自身を卑下し、他人を怖がってたいそう彼は生きづらかっただろう。
ある不幸な過去をもった女の話に、夏目漱石がつまっている。
女の話を自宅で聞いていたところ夜が更けてしまったから送っていくと申し出たところに「先生に送って頂いては勿体のう御座います」と言われたところ、
「勿体ない訳がありません。同じ人間です」
そう驕っていないどころかどこか哀しみをもった言葉を返し、
彼女の話を聞きながら、普通なら励ましたり慰めたりするところを
私の力でどうする訳にもいかない
と、やや突き放したような言い方をする。けれど、次には深く愛情のある言葉を送っている。
その人はとても回復の見込みの着かない程深く自分の胸を傷つけられていた。同時にその傷が普通の人の経験にないような美しい思い出の種となってその人の面を輝かしていた。
もし小説として続きを書いたならば始末として死ぬべきか生きるべきかと問われながらも、ついに答えられず
常に生よりも死を尊いと信じている私の希望と助言は、遂にこの不愉快に充ちた生というものを超越することが出来なかった。
とし、自分を疑い嘆いている。
不愉快に充ちた人生と嘆きながらも、よく彼は彼の言う尊さや楽な道を選ばず病死できたと思う。なぜかそれをとても嬉しく感じる。
もちろん、本人が嬉しかったかは別として。
