このメールを削除しますか?

「メールを削除しました。」

偶然見えた隣の人の携帯のディスプレイに表示されたメッセージを目にして、自分の心が削除されたように痛んだ。

 

もちろん、それがどんなメールで、どういう経緯で削除されたのかを知る由もない。単なる出会い系のメールだったのかもしれないし、以前の恋人がくれた最後のメールを、思いを断ち切るために削除したのかもしれない。片思いの相手へ出せなかったメールを自分の切なさと一緒に削除したとも考えられる。

 

向かいの窓に映る彼女の表情からは、何もうかがえない。

心が痛んだ理由は、二つある。一つは、削除されたメールの送信者を想った。もう一つは、きっと、かつて誰かに削除されたであろう自分のメールを想った。何の抵抗もできず必死のアピールも空しく容赦なく削除されてしまったメール。きっと、あのメールのたどった運命はそうに違いないと、過去を回想する。

 

手紙ならば、千切られ、焼かれ灰になっても、形は残る。

 

だが、一度も形にならなかったメールは、それすら許されない。削除される間際、託された思いを、今度は誰に託すのだろう。もしかすると、配達者を失った気持ちは、憑依先を失って行く当てもなく漂っているのではないだろうか。雨の夜が、こんなにも切なくなるのは、漂っていた切ない気持ちが雨と一緒に降り注ぐからかもしれない。

 

明日はスパムメールも生かしておこう。とりあえず、雨が止むまでは。

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