傘の下のしずく


最近、電車の中は寝てしまっていて、だいぶご無沙汰しているが、
電車に乗る際に密かな愉しみがある。




まず、カバーをかけていない本を読んでいる人を見つける。
個人的には、人前で自分の読む本のカバーをかけないなんて
自分の信条を赤の他人に見られてもかまわないという
開けっ広げなことが出来る人たちを尊敬の念すら覚えてしまうのだが、
彼らがいないと始まらない。




彼らの読んでいる本の題名だけを目で追い、そこから妄想する。
その本がどんな、物語なのか。
いま、その物語のどの部分を読んでいるのか。




そんな遊びを久しぶりにやってみた。




「傘の下のしずく」 著者 不明




日の目を見ない娼婦の話。
傘の下の雫は、日が差した刹那、芽を吹き出す情熱の源泉。
だが、決して日が差すことはなく、
傘から新しい滴が落ち、情熱は薄められてしまう。




情熱は単純に薄められるかといえば、必ずしもそうではない。
新しく注入された滴は、新たな情熱が生み出し、以前の情熱を再生成していく。
生命の循環のように情熱も循環している。
一人の人間と社会ではなく、
一人の人間を形成するいくつかの情念と社会を向き合わせた作品。




当たり障りのない妄想に拍手。
主人公の名前すら決まらなかった。

岐路


前の彼女がフロムエーの「今週の主人公」として載っていることを人づてに聞き、
思わず買ってしまった。




写真と対峙したものの、それからどう向き合っていいものか戸惑ってしまった。
彼女の生活を隠れて覗き見してしまっているような感覚。




写真で見るからなのか、懐かしさはなかなかこみ上げて来ない。
その分、妙に客観的に見てしまった。
写真の中の数年振りの彼女は少し大人びていて、
少し顔がふっくらしている気がした。
寒い時期になると顔が丸みを帯びる。
彼女の体質からなのか、単に丸くなったのか分からない。




彼女に連絡をしてみようか、そう思ったが瞬時に打ち消した。
連絡しようかと考えたときに頭の中によぎったのは、
何かが始まる期待でも、何も始まらなかったときの失望でもなく、
何かが始まってしまった時への恐れがあったから。




恋愛関係が終わる直前の不協和音だけが
また鳴り始めてしまうのではないかという不安。
彼女の時をただ浪費させてしまうだけではないかと。
何かは始まる自信と、限りなく続くことはない自信の無さという
相反した感情が渦を巻く。




何のために必要のない物を買ったのか。
単なる興味から?
幸せであるかどうかの確認のために?
心が乱れる。が、なんとなく、自分の行動を理解する。
この乱れが治まった後、僕は携帯を手に取る。

美容師


久しぶりに、美容師を指名した。
実に4年振り。
その間、自分で切ったり、ふらっと美容院に行って開いている人に切ってもらったり。
特定の担当者を決めなかったのは、特別いいと思える人に出会わなかったのと、
伸びるのが早すぎて維持に困っている髪に、
担当者を一人つけるほどの価値と思い入れを持てなかったから。




今回の担当者との出会いは、一ヶ月前。
ふらりと訪れた地元の美容院に「予約でいっぱいだから」と断られて、
しかたなく、少し遠くにある美容院に行った時に担当してもらった縁。
彼女に決めた「これ」という特定の理由は無いけれど、
「品のいい坊主」という無茶なリクエストに、
それなりの答えを出してくれた彼女の腕に少しだけ惚れたから。




実は、今日も、会社の近くにある美容院にしようか、
自分の通勤を考えると少し辺鄙な場所にある、
彼女がいる美容院にしようか迷ったくらい、まだ決めかねていた。
けれど、土曜の夕方という忙しい時間に予約も取らずに訪れたのに、
頼もしく出迎えてくれて、1ヶ月前のことを覚えていてくれたことが、
素直に嬉しく、来てよかったと思えた。




しかし、今後を考えると、やはり予約は苦手。
やんちゃな髪のために指定した時間に行かなければいけないと考えると、
それだけで気分がめいってしまう。

逃亡


最近、職種を聞かれると困る。
営業でもないし事務でもないし、自分の職種がなにに当たるのか分からないため、
勝手に「クリエーター」と名乗り始めてますが、資格とか必要なのでしょうか…。




どちらにしても、ほぼオフィスにこもっていて外に出ることが少ないため、
久しぶりに外に出てみると桜の花がいつのまにか満開だったりして、
気持ちは浦島太郎。




平日オフィスで働いて、週末家で寝ているだけなのも鬱憤がたまるので、
今年度の目標として、「一月に一度は東京脱出!」を掲げることにした。
自宅から3駅乗れば、もう千葉県なのだけど。
いやいや、東京らしくないところへ毎月行って、世間勉強を兼ねた気分転換。




今月はさっそく川治温泉へ行ってた。
温泉以外になにもない癒されるにはいい場所だった。
宿の露天風呂は開放的で、裏を返せば覗かれ放題なわけで、
川岸にある露天風呂なのだけれど、
反対の川岸からは、女湯も覗けるような状態だった…と思う。
外から見ると恥ずかしさが多少あるけれど、
温泉に入ってしまえば、そんなことどうでもよくなるくらいの気持ちよさで、
人も少なかったし、のんびりし過ぎるくらいだった。
あとは、空に星さえでていれば文句なかったのかな。




そうそう、サウナに入ろうとしたら、
父親と一緒にお風呂に入りに来た小さな女の子が ― といっても、10歳くらいだけど ―
素っ裸で一人で入っていて、さすがにここで二人きりになるのは犯罪だろうと思って、
サウナに入るのを思いとどまった。
彼女の年が2倍くらいなら、喜んで隣に座るのに…。