喫茶店を出ると外は雨だった。
鞄から折りたたみの傘を出す。
「今日は雨が降らない。」
そう言い張った彼女は傘を持っていない。
「入れてあげないよ。」
口ではそう言いながら、僕は傘を彼女の方に傾けて歩き出す。
「相合傘なんて久しくなかった。」
そう考えた瞬間、後悔した。
彼女との近すぎる距離を妙に意識してしまう。
白いブラウスの袖と黒いTシャツの袖は、触れ合うたびに解れていく。
二本の解れた糸が一本の絹糸を紡ぎだし、僕の心はその絹糸に締め付けられる。
細く、強く、美しく。
絹糸は彼女の心が紡ぎだしたもの。
動揺からか、歩調が乱され、彼女とペースが合わなくなる。
自然、彼女は傘から出てしまう。
けれど、何も言わない。
先ほどまでの、肩をつかんで抱き寄せようなどと考えていた余裕はまるでない。
横を向くことさえできず、視線だけを向かわせる。
彼女は前方の一点だけを見つめている。
その表情は黒髪に隠され伺えない。
解れが肩まで達し、柔らかな肩が露になろうかというころで地下鉄の駅に着いた。
惜しいと思う一方で、締め付けられた心は限界だった。
傘を畳む間に、位置は入れ違いになり、彼女は僕の右手に位置する。
ブラウスの左袖は雨に濡れ肌が透けていて、幾分寂しげに見える。
そこから伸びた白い腕は眩しく、直視できない。
「まずい」
そう、危惧した通り、彼女は僕の右肩がずぶ濡れなのを見つけてしまう。
僕は、僕の右肩をタオルで拭こうとする彼女から反射的に逃れる。
きっと、タオル越しでも知れてしまうだろう。
雨に濡れ、冷えたはずの右肩に熱が篭っているのを。
いや、右肩だけでなく体中に、だ。