少女の視線の先で女は化粧をしていた。昼下がりの電車内である。車内は都心へ向かうにつれ混み始めていた。
女の近くに立っている少女は電車が大きく揺れると母親の手に危うそうにつかまりながらも相変わらず女を凝視していたが、化粧に夢中な女はそれに気づかない。まだ十ほどの少女の素肌は化粧を施されたことがないだろう。女へ投げかける少女の視線は化粧への興味によるものかと思ったが、目を細め眉間にしわを寄せたその眼差しは、化粧への憧憬が微塵も感じ取れない。
女と私は同じシートに座っていたがあいだに三人いた。三人を横切って視線を向け、少女のように化粧をする様子を凝視するには不都合な場所だった。ただ、四十手前に見える横顔と、花柄の優しい色合いのワンピースから間違えて飛び出てしまったかのような不釣り合いに太い腕をしきりに動かして化粧に勤しんでいる姿からは、たとえ化粧に寄りかかっても美しさとはほど遠いところにいるよに思えた。女の化粧がすすむにつれて、いっそう少女の女を見る目が険しくなった気がした。熱心に化粧をしてもいっこうに美しくならない苛立ちなのかもしれない。あるいは、化粧への幻想を打ち砕かれた恨みだろうか。
女を残して降りたホームでもなお、少女は睨み付けるな視線を送っていた。