手帳を開くと懐かしい香りがした。
ほとんど使われなかった手帳に残された香水の匂いは、当時よりも強く鼻をくすぐってきた。わずかに残っていた愛おしさと共に。その香りを振り払うように、ひとつ大きくため息をついてみた。半年経ってもなお前に進めずにいる自分への嘆きも一緒に吐き出した。
互いに網にからまって飛べない鳥であり、同時に網でもあった。ならば、互いを記憶から消してしまう以外に、前に進む方法はないのだと思っていた。けれど、前に進めていないのは自分だけで、ひとりでどんどん前に進んでしまうのを恨めしく感じていたんだ。それに気づかず、見えなくなっていく背中に罵声を浴びせて、追い払いつつ引き留めていた。相手はもうとっくに新しい世界を歩んでたというのに。
手帳に残された香りを再度かいでみて、かつての愛情が香りのようには残っていないことも感じた。さっき感じた愛おしさが、最後のそれだった。
これで、ようやく前に向いて歩いていける。
そう思った。