夜明け前に起床。大きなバス会社のエル・チャルテン行きは既に埋まっていたので、別のバス会社で申し込んだら、他のバス会社よりも出発が少し早い。今日も洗濯してから行こうかと思ったが、帰りが遅くなりそうだからやめておいた。バスターミナルに着くと、ちょうど日の出の時間。日の出に背中を押されながらエル・チャルテンへ。エル・チャルテンの目的はフィッツ・ロイ山を中心としたトレッキングなのだが、トレッキングというものがどういうものだか分かっていない。散歩くらいに考えていた。
エル・チャルテンに着くと、まずは国立公園管理局でトレッキングの説明。ここまで何時間くらいかかるよとか、ゴミは持って帰ってきてねとか。外には虹がかかり、虹の中に丁度よく山が収まっていた。あまりに印象的な風景のため、この山がフィッツ・ロイだとずっと勘違いしていた。
バスターミナルを出ると、さっそくトレッキングコースへ。日帰りなので、短いコースを選ぶことにしたのだが、始まって10分で愕然とした。とにかく急な斜面を登っていく。エル・チャルテンの小さな街は見下ろすほどに登った。既に足がくたくたで、これをあと数時間とかどうかんがえても無理。なにより、他に歩いている人がいないため道が正しいのかわからず心許ない。やめようかとも思ったが、後先を感がえるタイプでもないので進むことに。一旦登り終わるとなだらかな道が続きほっとする。少しすると急斜面。やがて落ちたら死ぬだろうという岸壁を慎重に歩く。崖の下には川が流れていて、対岸の山肌からは川とも滝とも言えない水の流れがあった。氷河によって削られ作り出された大地が広がる光景は圧巻。満足したので帰りたくもなったが、戻ったところで帰りのバスまで時間があるので前に進むのみ。心許ないのは水。500mlのペットボトル一つしかもっておらず、計画的に飲むことに。途中でビュースポットにたどり着き、ここで終わりだと思った。意外と近かった。そこから先は天気の悪いときはいっちゃいけないという道だと思って進んだが、終わりが見えてこない。全く持って途中だと気がついた。この辺になると人もちらほら。基本的には抜かされるんだけど。中でも、カナダ人らしいカップルが険しい道を小走りで走り抜けていった。しかも、男性がずっと話している。話し声が遠くから聞こえ始めて、抜かされ、話し声だけがずっと残っている。どんな体力してるんだか。彼らとは行き帰りで3度抜かされ、ずっとそんな調子だった。なぜ3度なのかは、行きとこちらの方が戻る時間が早かったらしく帰る際、さらに彼らが休憩しているところを抜かした後、すぐにまた抜かされた。
トレッキングコースがあるとはいえ、案内板などはほとんどなく、人が歩いて出来た道だけ。開けた道に出ると、道が分かりづらくなり、先に行った人達が戻ってきたりしていた。とりあえず進んでみたが。やがて大きな川に出て、その道づたいに行くと、地図を見る限りもうすぐゴール。そのもうすぐが長いのだけれど。先日のサングラスを忘れたのに引き続き、今日も日焼け止めを塗り忘れた。長袖を着て焼けないようにはしたものの、日が照って暑くなりパーカーを脱ぎジャンパーも半袖にしたため、こんがりと灼けた。そして、一度はちゃんとしまったパーカーだが、風が強くなって砂が目に入るのを防ぐためにサングラスをバッグから取り出したとき、バッグにかけただけにしといたため落としたか風のせいで飛んでいったかで無くしてしまった。サングラスを取り出したところまで5分ほどかけて戻ったが、ないものはない。きっと誰かに持って行かれたんだろう。最終目的地直前での出来事に凹んだ。荒い砂利道を上り終えると視界が開けトーレ湖に。トーレ湖の奥にはトーレ氷河があり、氷河の欠片が対岸のこちら側まで流れ着いていた。木や草すら生えていない急な山の斜面の間に伸びる氷河は湖を挟んでいるために遠く、正直なところ2時間半の疲労に見合う期待した絶景ではなかった。風がかなり強く、砂埃が激しいので少し休憩した後に戻ることにした。
帰りは下りも多くいくぶん楽な気がした。分かれ道で他のビューポイントのある遠回りの道を歩こうか迷った。バスの時間は遠回りするとギリギリ大丈夫。問題は体力なのだが、体力もあと5時間くらいなら大丈夫な気がした。そう思い、遠回りする道へと進みかけたが、水がほとんどないことを思い出して、早めに街に戻ることにした。行きで半分だけ飲むと決めていたのだが、ゴールと間違った時点でごくごくと飲んでしまったため、帰りの道で飲める水はほとんどなし。ガムを噛んで口の中を潤しながらの下山。途中、小川が流れていたので、腹痛になるのを覚悟で口を潤し、ペットボトルの最後の水を飲み干して、小川の水を入れていたら、異物だらけで飲む気にはなれなかった。そんなわけで、この時点で水はなし。カメラの電池も誤って動画撮影されていたため、いつのまにか電池を使い切ってしまっていた。なんかもう何をしたいのかが分からない。昨日、こういう旅をする人達ってドMだよねと話していたことを思い出したが、水もなく山道を歩くってどれだけドMだよと。しかも、素晴らしい景色があってもカメラに収められない。
とにかく早く下山したい。けれど、気持ちは萎えて足は動かない。後ろからどんどん抜かされる。年配のグループにも抜かされる。強風で向かい風の時は、前に進むのがやっと。体力のなさを痛感した。行きの時は、すれ違う人と挨拶する「オラ!」の言い方を色々考えたりして、密かな楽しみにしていたが、もうそんな余裕はない。体の向きを変えて、風を上手くとらえて前に進むのをいかに楽にするかしか考えてない。これだけ風のことを考えたらヨットが上手くなるんじゃないだろうかと思うくらいに。
切り立った岩を横目に進んでいくと、エル・チャルテンの街並みが眼下に広がった。そのときの嬉しさと言ったら。嬉しさもあってか、山に囲まれ、脇を大きな川が流れるエル・チャルテンの小さな街並みが非常に美しいと思った。街を上から見下ろして、これほど美しいと思ったのは初めてだった。ここでお弁当を食べたら美味しいだろうに。最後の貯めておいたバッテリーを使って数枚だけ写真撮影。シャッターを切るごとに電池切れになってしまったが。
この美しい景色を見ながらゆっくり休んで、先へと進む。眼下に見えると言っても、まだまだ先なわけで、ずっと下りとはいえ萎えてくる。街に戻った頃にはもう足はくたくた。バスターミナルへ向かう途中の店でで水とスプライトを買い、その場でスプライトを飲み干した。ようやく得た水分と糖分が体に染み渡っていくを感じながら、達成感のようなものを感じていた。
昼食はバナナだけだったし、バスの時間まで少しあるのでレストランへ。牛ヒレ肉のグリルと良く分からないエッグを頼んだら普通の目玉焼きだった。日本のに比べれば肉は少し硬いのかもしれないけれど、ソースが美味しい。幸せ。ついでに、デザートでカシスのムースを頼んで大満足。バス停に行ったら、同じ宿に泊まっていた人がいた。彼は1泊でエル・チャルテンへ行き、別のルートのトレッキングをしていたらしい。彼によれば、敬遠したルートは途中まではなだらかな道だったらしい。その先は険しい道だったが、待っている風景は格別だったとか。ちょっと悔しい。
帰りのバスが出発すると日が沈んでだんだん暗くなっていく。暗くなっていくと空と雲がちょうど山と氷河のように見えてくる。うっすらと白い雲は氷河で、周囲の沈んだ色をした空が山。見慣れてしまったせいか、自然とそう見えてくる。ある意味で、もっとも雄大な氷河だった。道半ばで辺りは真っ暗になった。窓からは星空。南十字星が見えるかと思ったが、星が多すぎてどれがどれだか分からない。南半球の星座も良く分からないし。正直なところ疲れているし寝たかったのだが、頭がさえてきて色々なことを考えた。日本に観光項客を増やすにはどうしたらいいかなとか、使えそうなアプリの案とか。日本といるときと視点を変えた見方ができるから、旅をするときにする考え事は面白い。あとは、日本に帰ってどうその考えを生かすか次第だけど。
エル・カラファテに着いたときには11時近く。パーカーの代わりを探したが、店はとっくに閉まっていた。宿に帰ってシャワーを浴びて就寝。ぐっすりと寝た。といいたいところだが、嫌な夢を見て起きた。自分の心に古くから根付いた嫌な感情を噴出させたような夢だった。