「もうすぐ来ると思った。この前の金曜日に見かけたから。」
「え?」
「しのばず口の方に。距離があったから声はかけなかったけれど。11時過ぎだったっけ。けっこう帰るの遅いんだね。」
「あぁ。へー。」
美容師のあけちゃんとの会話。会話にすらなっていないか。
「平日は普通なんだね。髪とかもセットしてなかったし。」
と痛いところをついてくる。
確かに、職場が変わってから若い人もあまりいないし、編集部ってお洒落とは程遠い感じだし、無理に格好を気にしていっても浮くだけで、以前ほど自分の身なりに気を使わなくなった。
そんな言い訳をしていると、
「見てくれる人がいるって大事なんだね。」
とあけちゃん。
言わないだけで、見てはいるのだろうけれど。三十を超えた独身のお姉さま方の腹の底はなかなか見えてこない。
「実は、最近、薄くなってきたから、髪に負担がかからないようなるべく整髪剤をつけないんだ。」
と、もう一つの理由は言わない。
もう三年近く髪の毛を見てくれている人だし、とっくに気付いているのだろう。だが、髪の専門家だからこそ、あけちゃんに言われたら最終宣告のような気がして言い出せない。
「禿げてきたね。」
と、言いたくても言えないあけちゃんも辛いのかも知れないが。
あけちゃんと、翌週の金曜日にも会った。今度は電話中のあけちゃんに、こちらも気付いて軽く会釈をして擦れ違った。思わず、もう閉店したショップのガラスに映る自分の姿を確認した。
来週の金曜日は、もう少しお洒落をしていこう。