愛情はふる星のごとく

個人的なことではありません。念のため。
ゾルゲ事件の首謀者の一人として逮捕され、死刑判決を受け1944年11月に絞首刑に処された尾崎秀実が、妻の英子と娘楊子に宛てた獄中からの書簡集です。

以前に、手に入れようと思ったまま忘れてしまったこの本を思い出してしまい、どうしようもなく手に入れたくなってしまいました。

手に入れる前日の夜など、何度となく、この本について思いを馳せてみました。「愛情は、ふる星のごとく」なのか、「愛情はふる、星のごとく」なのか悩んでみて、でも後者だったら「愛情はふる。星のごとく。」になるからやっぱり前者なのかなと思ったり。幼稚な問いかけをして、気分を高めていました。

小説ではなく、書簡でしかも往復書簡ではなく尾崎秀美が妻と娘に宛てた一方向の手紙しか掲載されていないにもかかわらず、昭和の舞台へと引き摺りこまれます。色のない獄中とセピア色の母と娘の暮らす家へと。

現在ですら犯罪者の家族は冷たい目で周囲から見られるのに、戦時体制の狂気の中で政治犯の家族の居場所のなさは想像に難くありません。

尾崎の政治活動を何も知らなかった英子からの恨み節に、彼は反発するわけでもなく、ただ獄中から二人を支える言葉を投げかけ続けます。

 私は心から二人の許にかえり、
 また一しょに仲よく暮らす日のことを考えています。
 生きていてさえくれればきっとまた
 私が三人の生活を立て直しますから。
 
そして、ユーモアを交えつつ楊子の成長を見守ります。

 楊子は「巣」の字をいつも間違って
 「肖木(字がない。田を日と書く)」と書いてしまいます。
 すがぐらぐらして木から落ちるといけませんから注意なさい。

穏やかな口調にも関わらず、悲痛な心が読み取れるのです。彼は、本人は自分の将来を予測できていたでしょうから。

まだ、彼が死刑判決を受けた頃までしか読んでいません。刑に処されるまであと一年ほどあり、おそらく(全くの想像ですが)これから妻と娘への愛情がさらに溢れるばかりに降り注ぐのでしょう。これからの尾崎の日々を丁寧に読もうかなと思っています。

どうでもいい話を加えるなら、
「きっとこの本に興味を示すだろうな、読み終えたら貸したいな。」
と、ふった星のごとく、輝きを失って余熱だけを発する愛情を私は抱えながら読み進めています。

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