その日は遊びすぎて、終電をなくしてタクシー帰りだった。
小腹を満たすために、コンビニでヨーグルトとゼリーを買って
家の門を開けようとすると、黒い影が飛び出してきて驚いた。
その後を目で追うと、毛並みの悪い少しやつれた、
一見して野良猫だと分かる黒猫だった。
ただ、背から腹にかけて一部分だけ駆け抜けたように白い毛が生えているのが
電灯に照らされて光っている。
黒猫は、少し離れた場所に尻を付け、こっちを見て「みゃー」と鳴くので、
「みゃー」とこちらも鳴いてみたが、まるで聞こえなかったかのように、
何の反応もない。
今度は、少し大きく「みゃー」と言うと、
黒猫は
「みゃー」
と応じた。
せっかくだから、夜食を一緒にでもと思い、
先ほどコンビニで買ったゼリーに入っているみかんを掻き出して、
黒猫の近くへ投げてみた。
黒猫は、びくっと体を強張らせ、
慎重にみかんへ歩みよって鼻でかいだが、
お気に召さなかったらしく、元の位置に戻ってこっちをみつめる。
どうも、その距離が自分としっくりくる間合いらしい。
野良猫のくせに、好き嫌いがあるとは贅沢な猫だなぁと、
呆れて見ていると、
黒猫もみつめかえして、「みゃー」と鳴く。
餌をねだるなら、せめて話してみろと思ったが、
やはり、「みゃー」しか言わない。
いい加減、帰ろうかと思った瞬間、猫がしゃべりだした。
しゃべったと言うのは正確ではない。
猫の感情が塊となって飛んできた。
幸いにもと言うべきか、偶然にもというべきか、
自分は、それを受け止められたらしい。
「みゃーとか真似したって、可愛くねぇんだよ。
さっさと、餌をとってこい。この家の住人なんだろ?
そもそも、猫にみかんを、しかもゼリーの中にあるみかんを与えたところで
食う馬鹿猫がどこにいるんだ、おい。そこの坊主頭。
少しは、頭をつかいやがれ。
あ、また猫真似しやがる。
何を言ってるかわかんねんだよ。
ただ、みゃーって言えばいいと思ってやがる。このバカ。
自分だけが高度な文明社会を持ってると思うなよ。
あぁー相手にしてらんねぇ。」
黒猫は、路地裏に消えてった。